「つぐない」 →全然つぐなえてない。残るのは少女の後悔

つぐない [DVD]

評価 ★★☆☆☆

一言で喩えると『全然つぐなえてない。残るのは少女の後悔』

2007 アメリカ "Atonement"

 あらすじ。

 小説家を目指す13歳の少女ブライオニー(シーアシャ・ローナン)は、イギリス政府官僚の娘で、森の中の豪華な屋敷で何不自由ない暮らしを送っていた。ブライオニーは使用人の息子のロビー(ジェームズ・マカヴォイ)に密かな恋心を抱いていたが、ある夏の暑い日、ロビーと姉のセシーリア(キーラ・ナイトレイ)の情事を目撃してしまう。混乱したブライオニーは「ある嘘」をつき、無実の罪を負ったロビーは刑務所送りになってしまう。
 4年後、ロビーは減刑と引き換えに兵士となり、ナチス・ドイツの侵攻しているフランスへ送られる。一方、18歳になったブライオニーはセシーリアとロビーに許しを請うことを決意する。。
序盤の森と邸宅のシーンをはじめ、淡い光のあふれる映像は、どのシーンを切り取ってもそのまま絵画になりそうなほど美しい。
 
 ただこの映画には決定的な問題点が2つあると感じた。

①18歳になったブライオニーがぜんぜん可愛くないこと。

 これが最大の問題点。13歳のブライオニーは、思春期の少女の危うい美しさが溢れており、極端な行動も多感な美少女だけに、不思議と納得させられる魅力があった。一方で、18歳のブライオニーは、謝るべきことも謝れないまま、どうも虚ろな根暗少女になってしまった。あれだけの罪を背負ったのだから、もっと思い悩んで苦悩する美少女になってくれないと困る。看護婦になったのも、二人に対するつぐないに全くなっておらず、ただの逃避だ。

② 結末がぜんぜん「つぐない」になっておらずスッキリしないこと。

以下ネタバレ。






























 ブライオニーは戦争のあと二人に謝りに行くのだが、これが後に作家となったブライオニーの作品の中だけの出来事であった。実際には戦争で2人は亡くなっており、ブライオニーは贖罪のチャンスを永遠に失ったまま生き続けてきたのだった。

 ―という結末なのだが、まず作品の中で「再開した2人の幸せな姿」を描いた、と言ってもそれは「2人に対する」贖罪にはまったくなっていないので、ブライオニーの自己満足だろう。それを作品として発表するのも、ただの作家としてのパフォーマンスだ。さらに、戦争後に2人が再開したからといって幸せかといったら、ロビーは投獄と戦争で多くのものを失っており、あれでハッピーエンドとはとうてい思えなかった。結局、あの夏の日に二人が失ったものはどうしたって贖えないのだ。戦争で2人が死んだことで、ブライオニーは単に二人に謝罪する機会を失ってしまっただけだ。ブライオニーの物語の中で、再開したロビーはブライオニーに怒っていたが、あれだけのものを失って憔悴したロビーが実際に生きていたら怒っただろうか。あれも「二人に罵倒されて罪を償いたい」というブライオニーの欲求でしかないように思われた。

 映像や雰囲気が素晴らしかっただけに、この2つの問題がなければ超名作になっていたような気もするだけにどうにも残念。

 たとえば、ラストにこんなカットを入れたらどうだっただろうか? 18歳になったブライオニーが、13歳のブライオニーに真実を言うように説得する。なんど説得しても13歳のブライオニーは考えなおすことはなく、未来は変わらない。18歳のブライオニーは自分の罪深さとやり直せないことをありありと理解する。。とか。。

 2人に対する本当の「つぐない」があるとしたら、ありもしないハッピーエンドを描くことよりも、過去の自分と事実に向き合う以外にない。


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metaphorizer

 いい映画は観るたびに発見があるので、何度観ても楽しめる。 つまらない映画は観たあとにあーでもない、こーでもないと言い合って楽しむ。 映画館に行くよりも、引きこもって家でだらだらDVD観るのが好き。 特にSF、サスペンス、アニメーション。


なんとなく評価基準


★★★★★ 超スゴイ!! 殿堂入り。
★★★★☆ スゴイ! 人に薦めたい作品。
★★★☆☆ まあまあ面白い。また観てもいいかも。
★★☆☆☆ ちょっと残念。もう一度観ることはないかな。
★☆☆☆☆ かなり残念。観なきゃよかった。。