評価: ★★★★★
喩えるなら「人生やり直しボタンを連打! たどりついた究極の選択とは?」
2005 アメリカ "The Butterfly Effect"
複雑ながらもまったく矛盾のない完璧で美しい脚本。 スリリングかつ心をエグってくるかのような引き込まれる怒涛のストーリー展開。そして、なんといっても胸が裂けるような切なくも素晴らしいエンディングだった。 こんな傑作を見逃していたとは。
本作はSFサスペンスの中でも、「タイムリープもの」の最高傑作ではないだろうか。
「タイムリープ」とは、意識だけ過去の自分に乗り移り、歴史を改変して人生をやり直すことができる超能力のことだ。
ひょんなことからタイムリープ能力を身につけたエヴァン(アシュトン・カッチャー。超絶イケメン!)は、幼馴染のケイリー(エイミー・スマとート)や周りの人々を悲劇から救うためにタイムリープを行う。しかし、タイトルにある「バタフライ効果」の通り、悲劇を回避するためのエヴァンの行動は、めぐりめぐって別の悲劇を巻き起こしてしまうことになり、あちらをた立てればこちらが立たず、エヴァンは延々とタイムリープを繰り返すことになる。まるで複雑怪奇な三次元のパズルを解いているようだ。
「タイムリープ」自体はSFではよく扱われる題材だ。日本だと、ドラえもんの「人生やり直し機」や「時をかける少女」、最近だと「シュタインズゲート」など。ただこれらの作品は、全て「結局タイムリープしても、些細なことは変えられても、結局肝心なことは何も変えられない」という筋の話だったように思う。
「バタフライ・エフェクト」が異質なのは、過去に戻って起こした行動で、未来が毎回思いもしない方向に決定的に変化してしまうことだ。しかも自分の行動がどうしてそんな結果を引き起こしてしまったのかが納得いく形で完璧に説明されるので、観ているこちらもエヴァンと一緒にタイムリープの苦悩を味わうことになる。
ジェネオン エンタテインメント (2005-10-21)
売り上げランキング: 2,565
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以下ネタバレ。
タイムリープの道具として「日記」が使われるのが斬新だ。タイムリープの瞬間に文字が踊りだして日記に吸い込まれていく演出もおもしろい。
また、本作の見所は歴史改変のたびに、人生が激変してしまうケイリー(エイミー・スマとート)の演技である。メンヘラウェイトレス→イケイケ大学生→風俗嬢と、ころころ忙しく別人のように変化して、エヴァンのタイムリープが取り返しの付かない結果を引き起こしてしまったことをありありと感じさせてくれる。
最終的にケイリーの人生から自分との思い出が消え去り、二人がすれ違うシーンは圧巻だった。DVDに別エンディングが2通り(ストーカー・エンディングとハッピー・エンディング)おまけで収録されていたので観たけど、これはちょっと蛇足だと思う。監督もいう通りあそこで二人がまた出会ってしまったらケイリーの人生と自分との思い出を天秤にかけたエヴァンの決断が台無しになってしまう。ディレクターズカット版にもさらにまた別のエンディングが収録されているらしいけど。。。 これはもう完全に公開版のラストで正解だと思う。
このラストを観て、北野勇作の傑作SF小説「昔、火星のあった場所」を思い出した。この小説のラストは「バタフライ・エフェクト」 とは完全に逆で、最終的に彼女の存在が消滅し、主人公の記憶からも消えさってしまう。主人公は「彼女が自分の存在を犠牲にして世界を救ってくれたこと」は覚えているが、もはや彼女の名前すら思い出すことができない。共通するところは「大切な思い出がなかったことになってしまった欠落感・やるせなさ」にあると思う。